名誉主宰 阪田昭風
令和7年 2月号 | ||
両手振る媼の散歩秋日和 | ||
秋晴の犬に翁の曳かれをり | ||
秋の雨旅の妻子を思ひけり | ||
居眠りに終はるドラマや長き夜 | ||
秋の蚊を払ひつ妻の庭掃除 | ||
候補者の強き握手や秋深し | ||
秋しぐれ傘差す人とささぬ人 | ||
令和7年 1月号 | |
師の句碑へ紫陽花色を尽くしけり | |
古寺の木に全長晒す青大将 | |
初秋の木立静かに揺れてをり | |
濁流に靡く草の穂見え隠れ | |
草原を滑る朝日の爽やかに | |
新涼の雨上がりけり薬師堂 | |
秋澄むや兄の忌明けの遠愛宕 | |
令和6年 12月号 | |
兄逝きしは義姉の命日夏の果 | |
大空へ窓を離るる糸蜻蛉 | |
蝉の声聞かで今年の夏終る | |
悔いなしと兄逝きにけり夏の菊 | |
あえかなる珈琲の湯気今朝の秋 | |
義姉のもとへ兄の御霊や大文字 | |
雨戸漏る日差し台風一過かな | |
令和6年 11月号 | |
植田はや風躱しをり千枚田 | |
雨去るや咲き昇りたる立葵 | |
三代の揃ふ天空夏芝居 | |
雷鳥の歩みに合はす靄の中 | |
能登人に死語となりたる帰省かな | |
風に乗る仙石原の草いきれ | |
まろび寝の妻の寝息や秋近し | |
令和6年 10月号 | |
次の駅見ゆるホームや夏に入る | |
おとうとの骨揚げを待つ窓若葉 | |
枇杷熟れて葉陰にしるき鳥の声 | |
五月晴紘希柚葉と名告りけり | |
思はざる句集賜る麦の秋 | |
涼しさや竹林騒ぐ風の音 | |
父の日の大輪の花届きけり | |
令和6年 9月号 | |
岩を噛む渓流包む若葉かな | |
あやしても泣き止まぬ子や栗の花 | |
大銀杏結へぬ優勝五月場所 | |
結界に十薬の白穢れなし | |
水鱧や子煩悩なる父なりし | |
うすうすと遠嶺続くよ走り梅雨 | |
薫風や切り岸落つる水の音 | |
令和6年 8月号 | |
東寺の塔見ゆれば京やあたたかし | |
客乗せてチンチン電車花の下 | |
大鳥居疎水のさくら従へて | |
さきがけてはや散るもあり朝ざくら | |
縫い包みに話す媼や花の昼 | |
夕闇の苑にさくらのほの白し | |
行く春の湖面を奔る風の道 | |
令和6年 7月号 | |
残雪の連峰日矢に浮かびをり | |
春雷や戸棚に古りし輪島塗 | |
煽りくる風をかはして雪柳 | |
街頭の袴姿や卒業期 | |
風重しおもしと揺れて花辛夷 | |
神苑の小流れ早し流し雛 | |
朧夜やどこからとなく笑ひ声 | |
令和6年 6月号 | |
ワイパーをふはりと躱す春の雪 | |
登校の列を包みて春の雪 | |
残雪を丸めてゐたり下校の子 | |
暮れ方や辻の残雪うづたかし | |
偕老の弾む話もおぼろにて | |
春の夜の急須の茶葉の膨らみて | |
古雛を飾り歳月引き戻す | |
令和6年 5月号 | ||
師の逝きて二十三年石蕗の花 | ||
草枯るる色に安らぐ思ひかな | ||
大晦日夜来の雨の上がりけり | ||
一羽立ち二羽が追ひかく初御空 | ||
孫に遣り子に貰ひたるお年玉 | ||
亀石の流れきらきら松の内 | ||
鴛鴦のほどよき距離に日の差して | ||
令和6年 4月号 | |
取留めのなき気掛りや風邪の床 | |
風邪癒えて空へ双手をひろげけり | |
大空へ光を放つ冬紅葉 | |
落葉掃く妻の背丸くなりしかな | |
冬麗の風に瀬を立つ鳥の群れ | |
師の句碑に師のこゑを聞く年の暮 | |
宵の空茜とどめて年歩む | |
令和6年 3月号 | |
遠近に色付く柿や朝晴れて | |
はたはたの胸にぶつかる野路日和 | |
往路長く帰路の短し野路の秋 | |
こんがりとトースト焼けて秋惜しむ | |
初冬の垣根縁取る日のひかり | |
冬めくや隣家の寡婦の引つ越すと | |
顔見世やりやうこくはしに紙の雪 | |
令和6年 2月号 | |
朝顔の垣根に朝の雨雫 | |
娘らと最終ゴルフ秋晴るる | |
番ひつつ伴走するよ赤とんぼ | |
大空に戦ぎてゐたり竹の春 | |
車行くたびに芙蓉のお辞儀して | |
付き纏ふ秋の蚊に径間違へて | |
切株のにほふ小径や野路の秋 | |
令和6年 1月号 | |
薄日もる川面台風近付きて | |
遠来の句友囲むや野分過ぐ | |
新蕎麦やかつて単身赴任の地 | |
句を拾ふ小道翳るや秋の風 | |
秋の夜句作の妻に茶を淹れて | |
心地よき風となりけり秋彼岸 | |
追善の鼓の乱打秋の声 | |
令和5年 12月号 | |
咲き満ちて朝日に浮かぶ百日紅 | |
打水や石塀小路に燈の点り | |
行く夏の爪切る音のしづかかな | |
大文字の点火を待てり花頭窓 | |
立ち昇る煙に潤む大文字 | |
秋めくや車窓に覗く犬の貌 | |
初秋の雲を白しと思ひけり | |
令和5年 11月号 | |
宙乗りは伽藍の屋根へ夏芝居 | |
句会への極暑の道やあと少し | |
緑陰の風に歩みの止まりけり | |
新聞を丸めをる間に蜘蛛逃がす | |
膝掛けを引き寄せゐたり夜の秋 | |
寝に立つて足腰庇ふ夜の秋 | |
宣言のなきまま梅雨の明け行くか | |
令和5年 10月号 | |
麦秋や隠れ信徒の裔の島 | |
本堂へ大階段や風薫る | |
枝先に揺れてをりけりさくらの実 | |
短夜の地震に目覚むる薄明り | |
三越に久の新派や梅雨晴間 | |
紫陽花の雨の老人ホームかな | |
師の句碑に叙する久闊五月晴 | |
令和5年 9月号 | |
松並木尽きるところや五月富士 | |
鯉幟富士をそびらに風孕む | |
黄金週間激しき雨に終はりけり | |
曇天へほしいままなり栗の花 | |
老鶯に歩数囃されゐたりけり | |
山門に友の一礼青葉風 | |
万緑や嵯峨野の小径大道に | |
令和5年 8月号 | |
花の雨句友の訃報届きけり | |
幹濡れて黒光りをり朝桜 | |
さくら散る池の水輪や深大寺 | |
隧道の口をさくらの乱れ飛び | |
繰り返すお辞儀や風のチューリップ | |
新緑に影といふものありにけり | |
背高の筍太し薬師堂 | |
令和5年 7月号 | |
一息に朝まで眠り梅の花 | |
尾を振つて吠えたてる犬風光る | |
風に乗る野焼の煙懐かしや | |
茅葺きの茅新しき雛の宿 | |
里人の持て成し受ける雛屋敷 | |
奥庭に子猿回して長閑なり | |
道問うて参詣ぬくし祐天寺 | |
令和5年 6月号 | |
日溜りは母の懐春隣 | |
臘梅や峰を掠める千切れ雲 | |
残雪の嶺や朝日に浮かびをり | |
立春の光雲間に溢れをり | |
笑ふかに散歩の仔犬寒明ける | |
十字架に降り立つ鴉冴返る | |
尾根径の尽きて菜の花畑かな | |
令和5年 5月号 | |
誰彼に子の挨拶やお年玉 | |
演し物は恵方曽我なり初芝居 | |
落としたる革手袋の戻りきて | |
くつきりと幹の影あり落葉道 | |
居眠りて両手にスマホ日脚伸ぶ | |
富士見ゆる展望台や春近し | |
尾根径を抜け紅梅の空仰ぐ | |
令和5年 4月号 | |
天を衝く銀杏並木の黄落す | |
ランドセル固まつてゆく朝時雨 | |
山茶花の昼の静寂を救急車 | |
行先を影の導く十二月 | |
雲切れてくる青空や冬の虹 | |
冬桜墓地を囲みてゐたりけり | |
立ち上がり舞台へ拍手年の暮 | |
令和5年 3月号 | |
秋晴や鉢植ゑ漏るる水の跡 | |
甦る童心どんぐりに屈む | |
島の影枝を移りて神の留守 | |
初冬の線香太し大円寺 | |
日の及ぶ五百羅漢に木の葉散る | |
玲瓏と川に迫り出す冬紅葉 | |
句友待つ目黒不動の小春かな | |
令和5年 2月号 | |
蜩に日暮早しと思ひけり | |
浮雲や金木犀の日和あり | |
ひとつ火を見れば夜業の母浮かぶ | |
会見の総理の胸に赤い羽根 | |
快晴の一日となれり秋の暮 | |
残照のひときはあかし秋没日 | |
大伽藍弓張月のかかりけり | |
令和5年 1月号 | |
声かけて人を追ひ越す尾根の秋 | |
花木槿一つ大きく開きけり | |
九月はや川瀬に集ふ鳥の影 | |
嬉嬉として妻子は旅へ秋澄めり | |
秋入日雲を大きく割りにけり | |
毬栗によべの雨滴の光りけり | |
大方は大空のなか栗光る | |
令和4年 12月号 |
一望の青田に風の騒ぐなり |
遠花火心の闇に点りけり |
山の日やバスは日の丸靡かせて |
新涼や半紙ににじむ筆の跡 |
やりすごす池の風あり萩の花 |
床の間に吾亦紅生け古都の宿 |
芋の葉に夕日とどまる風の中 |
令和4年 11月号 |
さくらんぼ数へて皿に一個足す |
小照の母の遺影に胡蝶蘭 |
夏暁の夢に手ひろげ父とハグ |
足首のくびれ深しや昼寝の子 |
電柱の影に身を入れ日のさかり |
洛西の通り雨去る苔の花 |
赤ん坊に見詰められをり夜の秋 |
令和4年 10月号 |
前山の靄棚引きて梅雨に入る |
珈琲のかをりただよふ五月晴 |
町中の川を住処に通し鴨 |
給食の小鉢に添へて冷奴 |
薬効の手足軽ろしやほととぎす |
両腕に買物重し梅雨晴間 |
らんちうの動くともなく動きをり |
令和4年 9月号 |
初夏や雲千切れてはちぎれては |
一陣の風老鶯を呼び起こす |
句作りのよすがを拾ふ若葉風 |
木洩れ日の小径へ誘ふ夏の蝶 |
ここよりは立入禁止風薫る |
牡丹大輪朝日及びてゐたりけり |
麦の穂に雨の滴の綺羅なして |
令和4年 8月号 |
残る鴨渉成園の池広し |
回廊に歳月の寂朝桜 |
虚子句佛碧梧桐句碑囀れり |
花の雨句作の友に傘翳す |
花びらの小流れ早し枳殻邸 |
うぐひすの声ほしいまま啼いてをり |
いつしかに小雨去りをり散る桜 |
令和4年 7月号 |
白壁に芽吹きし枝を差し伸べて |
春光に導かれゆく尾根の径 |
春なれや竹のそよぎもやはらかく |
墓地囲む彼岸桜の満開に |
初桜瀬音を運ぶ風のあり |
読書する頁を歩む春の蠅 |
春塵のほのと及びし掛時計 |
令和4年 6月号 |
大雪の予報に今朝の晴れてきし |
学童の砂利踏む音や梅の花 |
大嵐に黄昏どきの春の月 |
抱き上げし仔犬やはらかあたたかし |
雉子一羽カメラが囲む遊水地 |
暮れ方の日矢をそびらに鳥帰る |
うららかや日を弾きをる瀬の遠し |
令和4年 5月号
倒れ込む走者二日の襷継ぎ
三日はや学習塾に灯の点り
植込みを日ざし縁取る寒の入
再会の笑みを湛へて初句会
寒晴や竹翻りひるがへり
一月の満月小さく締まりをり
寒晴の遠嶺に浮かぶ雲一朶
令和4年 4月号
師の句碑に侍る吾が句碑冬ぬくし
日溜りの地を低く飛ぶ冬の蝶
黄落を敷き詰め樹齢不詳の木
空の色流してゐたり冬の川
日がければ風の見えたる冬紅葉
日陰れば風見えずなり冬紅葉
冬ざれや赤石を置く猫の墓
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