俳句会結社の運営について

「結社の運営について」

 

結社とは

まず結社とは何かですが、

(*学術的論考はまだ少なく、以下島田達己著『経営学の視点からの結社(短歌・俳句)の研究』を参照)

「目指す理念を掲げその実現を目的とする非営利組織」と定義されています。

 株式会社を代表とする金銭的な利益を目的とする営利組織とは異なる、いわばボランティア組織で、

財団、俳句や短歌の結社、町内会などが該当します。

 その核となる「理念」は、主として創立時に規約や文章として掲げられ、結社はその理念に惹かれ

入会した人々により事業を運営します。

 非営利組織の結社は自分を探したい、才能を発揮したい、仲間から認めてもらいたい、など会員の「自己実現」

へのモチベーションにより統括されます。

 逆にいえば、会員の自発、無償な価値観に依存するため拘束力が弱く、結社への参加も退出も容易であるため

組織としてはもろく崩壊しやすいといえます。

 それではこの定義にそって、俳句結社の望ましい姿はいかにあるべきかを具体的にみてみましょう。

 

俳句結社の組織形態とは

 

まず現在の俳句結社の組織形態はどのようになっているか、以下のように分類されます。

 

 イ・主宰中心型— 主宰は絶対的な権威があり結社誌への作品の発表は全て主宰が決める

 

 ロ・主宰と同人会の併存型— 結社誌に発表枠を与えられる同人の欄と主宰選による一般会員の欄がある。

   会員への俳句指導は主宰が、結社の運営は同人会が行い、互いがフォローし合う

 

 ハ・同人誌型— 会員が全て独立平等で俳誌に自分の作品を自由に発表できる

 

 この分類の中で結社として最もふさわしい組織形態はどれでしょうか。

 

「イ」   はモチベ―ションを統括している主宰が変わったときに、組織は崩れます。

   ここ数年間で大きな結社がかなり解散しています。その結社の理念を象徴していた高名な主宰が亡くなり、

   モチベーションの維持が困難になったことが主な原因でしょう。

 「ハ」は会員ごとのモチベーションが並列化しているため、統括する機能が弱く、組織が大きくなるほどに崩壊する

    というジレンマに陥ります。

 

   よって俳句結社として最もふさわしい組織形態は、会員のモチベーションを維持するために主宰と同人会が互いに

  フォローし合いながら結社運営を行う「ロ」の併存型となります。

  「嵯峨野」は「ロ」です。

  現在は多くの俳句結社が「イ」や「ハ」から「ロ」の形態に変わってきていますが、嵯峨野結社は創立の時点から

 この併存型としてスタートした大変稀な結社です。

  それでは「ロ」の併存型として、いま嵯峨野結社はどのように運営されているか、概略を述べましょう。

 

嵯峨野俳句会の概略

 

1・「モチベーション」について

  自己実現への目標となる「嵯峨野」の理念はご存じのように

 「我々は一流一派に偏せず、芭蕉・蕪村に還る志を以て、ひろく俳句する心を究め、観照の世界に徹しようとする。

  有季定型を原則とし、新人もベテランも、ともにその力量のままに句作を楽しむ場をひらきたい」であり、

 俳句を楽しむすべての人に当てはまる、句作りを通して自己実現を目指す道を過不足なく伝える立派な理念と思います。

  創立以来五十年間、それぞれの主宰により少しづつ変化があったと思いますが、この理念のもと主宰は毎月会員から

 送られてくるすべての句を読み、又開催される大会や句会に出来得る限り参加し、選び、添削し、会員の作品の向上に

 尽力しておられます。

  こうした主宰の俳句指導により嵯峨野会員の句作りへのモチベーションは高められ守られてきています。

 

2・組織の運営について

 モチベーションという無償の価値観に依存する結社の組織は崩れやすい。

それを避けるため組織の強化が必要となります。その組織運営を担うのが同人会です。

 嵯峨野同人会はその時代、その時々の問題、例えば俳人の高齢化という俳壇全体の問題から、運営収支の赤字化といった

結社独自の問題までを感知し、役員会でその対策を議論し実施してきております。

 その数々の施策は、ご存じのように毎年の嵯峨野総会で決議を受け、その結果を俳誌で報告する、という流れとなっています。

 このように嵯峨野結社は主宰と同人会の併存型として運営されておりますが(付け加えるなら嵯峨野はこの仕組みを明確に

成文化した会則を持っている大変稀な結社でもあります)この両者をつなぐ要が俳誌『嵯峨野』です。

 会員はそこに載る自己の作品にモチベーションを高め、また俳誌を通して他の会員の作品や結社の活動を知ることで

心を一つとし、組織の結束が高められています。

 何よりも、コロナ禍で編集会議が開けないといった緊急事態をも乗り越えて『嵯峨野誌』はこの五十年間一度も欠巻が無く

毎月会員に届けられて来たことは嵯峨野結社運営の象徴とも言えるでしょう。  

 歴代の主宰、そして編集部をはじめとした諸先輩の努力に感謝し、五十周年を通過点として、これからも長く嵯峨野結社の

歴史をつないでゆかねばと思います。

 

 

2022年 嵯峨野8月号より  中島勝彦 前同人会長記