夕星抄


☆「夕星抄」は毎月約1,300句の中から、主宰により、選ばれた32句です。

☆「夕星抄余沢」は、夕星抄の中から、主宰による鑑賞が記された句となります。 サブページをご覧ください。

☆「やまびこ・私の好きな一句」は、会員読者が一番感銘、共感した句を選んでいます。上位の句を掲載しています。

才野 洋 選

  令和7年 2月号    
  戦ひは終はらず木の実落ち続く          中村 優江  
  夕暮は人恋ふ色に吾亦紅             北尾 鈴枝  
  一房の葡萄を囲む巫女溜り            中島 勝彦  
  透きとほる朝の日差しや初もみぢ         甲斐 梅子  
  祖母のこと忘れてをれば蚯蚓鳴く         髙杉みどり  
  身に入むや知覧に残る武家屋敷          中山 仙命  
  ひとつまたのぼる人煙里の秋           大野布美子  
  麻酔覚め医師との会話秋ともし          𠮷田 鈴子  
  旅の夢胸に養ふ冬帽子              金子 敏乃  
  風吹けば何処か淋しい曼珠沙華          山田 正弘  
  小鳥来る吾子よ元気かいつ帰る          吉瀬 秀子  
  秋晴や山家に一人居るしじま           塩出  翠  
  遠くより風見えて来る芒原            森田 真弓  
  山降りて佇む湖岸秋夕焼             鵜飼 三郎  
  吾亦紅揺るるきのふのやうなけふ         横川  節  
  届きたる三十キロの今年米            北村加代子  
  見はるかす刈田の中を一輌車           秋山 順子  
  稲の道抜けて古民家カフェの昼          石原 盛美  
  秋晴や海辺の町の丸ポスト            野島 玉惠  
  てつぺんの遠き坂道秋高し            新庄 泰子  
  父逝きて早やひととせや竹の春          舟木 轍魚  
  朝霧や里の目覚めの静やかに           上田 古奈  
  奥山の落葉の陰の忘れ水             中山 克彦  
  満月や兎になつて跳ねてみる           大塚志保子  
  大花野出づれば湖に船の待つ           鈴木とみ子  
  丘に立つグラバー邸や蘇鉄の実          廣岡トモ子  
  霜降や珈琲店に友偲び              二見 歌蓮  
  駄菓子屋の夕べ静かな秋灯            水科 博光  
  菜箸もすり減りしかな南瓜炊く          矢倉 美和  
  長き夜娘の部屋の椅子の音            北村 素子  
  我が子似の案山子見えたる車窓かな        湯浅あや子  
  芒にも光る朝あり予後の試歩           二見 謙治  
     
     
  令和7年 1月号    
  星空の里へ降り立つ賢治の忌           中野 東音  
  さざ波のやうなる余生萩の花           橋本 爽見  
  山の日を余さずまとふ青蜜柑           上達 久子  
  おしろいや子等の性格それぞれに         竹内 久子  
  天高し手をつながれて歩く歳           森本 隆を  
  木道の続く限りの花野かな            山本そよ女  
  京の街一望にして秋晴るる            阪田 悦子  
  啄木に二十歳の付箋秋灯下            坂戸 啓子  
  仕舞はんとする朝を鳴る秋風鈴          服部 史子  
  鰯雲畑仕事を懸命に               石堂 初枝  
  今日一日事なく終へて虫しぐれ          西川 靜風  
  名ばかりの松茸飯の食べ放題           武田 捨弘  
  蚯蚓鳴く地軸の傾ぐ星に住み           皆見 一耕  
  晴天へ重さを忘れ草の絮             須﨑咲久子  
  秋の夜や余白の時間深まりて           本多ひさ女  
  吹つ切れたやうに青空野分あと          栁瀬 彩子  
  青色のペディキュア塗りて夏惜しむ        柳爽  恵  
  波幾重くづれ秋日を散らしをり          柴田久美子  
  幾重にも想ひ重ぬる良夜かな           吉岡 裕世  
  扱き混ぜて野の花供ふ良夜かな          藤原 敏子  
  秋風や黒黒古りし神楽面             長野 泰子  
  Tシャツに秋の気配の風通る           國友 淳子  
  新涼やしばし遺影に話しかけ           出口 凉子  
  稲の香や普請の木槌響きをり           岡田 うみ  
  タップ踏むやうに歩くや星月夜          太田 鈴子  
  升二つ友の墓前で新酒くむ            武  義弘  
  逆上がりできた日の空いわし雲          田中土岐雄  
  牧場の牛の一声秋高し              行木 信夫  
  大空を雲の流るる稲田かな            小川 幹雄  
  ふらり来て月と一緒に帰る人           髙橋 能美  
  家揺らす隣家解体油照              増田孝之祐  
  夜半の冬十七文字の独り言            伊藤 富雄  
     
     
       
  令和6年 12月号    
  咲く時は散る時花火鮮やかに           貴志 治子  
  お休みと言ふ人のゐぬ虫の夜           𠮷本 海男  
  盆の月母を遠くに住まはせて           磯部 洋子  
  抱かれゐる赤児涼しきあくびかな         北村勢津子  
  切通し抜けるや萩の風清し            讓尾三枝子  
  桃すする甲斐駒は雲飛ばしつつ          松尾 憲勝  
  大寺の蝉幾万の読経かな             髙橋 良精  
  八月やパリは燃えてゐるかを聴く         益田 富治  
  砂浜にハートを描き夏終る            石浜 邦弘  
  おしろいやままごとの子は標準語         北尾 美幸  
  つかまへてなほきちきちの翅の音         梅原 惠子  
  波去りて砂のつぶやく晩夏かな          太田 朋子  
  空蟬の悟りにも似て乾びをり           太田  稔  
  蝉時雨仏宿れと石を積む             萩原 胡蝶  
  内海を優優と鳶涼新た              間部 弘子  
  百合の花嬉し涙をかくしけり           佐野 弘子  
  仏様の目差うけて盆用意             中森 敏子  
  生かされて今新涼の中に在り           梅田喜美惠  
  秋高し撞木静かに止まりけり           中田 定慧  
  蓑虫を揺らして風の子守唄            中谷 廣平  
  峡の日の残る集落葛の花             今泉 藤子  
  墨水を語りて母の震災忌             澤田 治子  
  陽と汗にまみれし服の夕厨            田中 節子  
  街の蝉あつけらかんと果ててをり         田中 美樹  
  秋の日のこぼれる岩間石舞台           和田 秀穂  
  八月や七十九年間の声              塩路 桂風  
  銭湯の富士眺めつつ夏の果            渡辺 秀峰  
  からつぽのままの骨壺敗戦忌           中島 佳代  
  語り部の声静かなる原爆忌            森柾 光央  
  ほほづきやもう鳴らし方忘れをり         髙橋 昭代  
  育ち行く子等を見上ぐる夏休み          芝山 栄子  
  帰省子の靴や三和土を占領す           廣田眞理子  
     
     
  令和6年 11月号  
  盛つてみる自作の小皿さくらんぼ         池内千恵子
  廻廊の床を鳴らして土用波            田中 京子
  木洩れ日や杉生の杜の梅雨の蝶          町田 珠子
  故郷の無人の駅や草いきれ            小野田紀久子
  花替へて涼しき部屋となりにけり         山下 千代
  浜木綿や波のつぶやき聞いてをり         福田真生子
  嘘ひとつグラスに沈め水中花           亀山利里子
  汗したる物濯ぎ又汗の中             川西万智子
  母の味父のやり方盆支度             光畑あや子
  芦ノ湖の海賊船や夕焼雲             馬場 久恵
  若き日の母の面影藍浴衣             森  君代
  採り頃のトマトに防鳥網が邪魔          田中 恒子
  一本の骨拗ねてをり古扇             天野  苺
  日盛や深閑として皇居前             浅見まこと
  初蝉の下校チャイムに紛れたる          泉  葵堂
  故郷を語り聞かしぬ夏木立            谷中 こ夏
  手になじむ父の形見の扇子かな          青木 謙三
  登り来て眼下に小さく夏の川           久保木倫子
  ふるさとの江戸風鈴の駅舎かな          村岡 和夫
  尾瀬沼を忽ち包む夏の霧             小畑 順子
  短夜の点滴換ふる白き腕             椎名 陽子
  みちのくの里の匂や青田風            中島 三治
  持ち主を想像したる夏帽子            寺崎 智子
  夕暮の樹間に残る捕虫網             藤井 早苗
  打ちあけて打ちあけられて星まつり        伊藤 泰山
  郭公や夫はいつもの生返事            播磨 京子
  朝靄に夏鴬の遠き声               藤沢 道子
  母詠みし孫への想ひ鯉のぼり           小林  昇
  身を出して落ちはせぬかとつばめの子       井上美代子
  旅先も瑞穂の国の代田かな            日比野灯花
  寺町に托鉢はやす蟬時雨             栁澤 耕憲
  風鈴の音の向かうにスカイツリー         高畑 由紀
   
   
     
  令和6年 10月号  
  古書店の灯しは低し梅雨に入る          中島 勝彦
  ひつそりと阿国の像や梅雨に入る         甲斐 梅子
  鑑真のまなこ安らぐ梅雨晴間           千代 博女
  うつつ世の翁嫗は氷菓好き            福田 圧知
  どしや降りにいよよ昂る神輿かな         清水山女魚
  結葉や樟千年の匂立つ              坂谷ゆふし
  梅雨寒や抱きあうてゐる猫二匹          三村 昌子
  六月や胸の真珠を守りとす            石井 紫陽
  残照の海は果てなし島の夏            山田 正弘
  お先にとベンチ離るる天道虫           池田 小鈴
  風薫る義民喜兵衛の祭祀堂            大森 收子
  この国の水平保つ植田かな            島松  岳
  再会を約する握手五月晴             森本 安恵
  ありふれた会話の続くやうに梅雨         横川  節
  肩たたきされる身となり河鹿鳴く         中村 文香
  梅雨寒やテープに遺る友の声           山本 信儀
  万緑や赤き句集の忘れ物             山根 征子
  骨揚の待つ間静けき四葩かな           中島 文夫
  帯揚げを買うて銀座の夕薄暑           小國 裕美
  長病みの妻へ団扇の風送る            中山 克彦
  迷ひつつ我が道すすむ蝸牛            川上 桂子
  ひとつ山越えて姉へと豆の飯           奥本伊都子
  走り梅雨兄と慕ひし従兄逝く           櫻岡 孝子
  亡き人を偲べる父の日となりぬ          舟木 轍魚
  ガジュマルの秘むる弾痕沖縄忌          二見 謙治
  夏の雲犬から獅子へ変はりゆく          仲野 由美
  太宰忌や道化に青き涙粒             築山ふみ女
  頁繰る朝の窓辺や沙羅の花            森谷留美子
  新田の地名消えたる梅雨入かな          坂井 俊江
  み教へを食す薄暑の建長汁            日比野灯花
  柿若葉園児にことばまた増えて          髙橋 賀代
  匂ひ立つ道や讃岐の麦の秋            中川 漲三
   
   
     
  令和6年 9月号  
  鱧料理沖の漁火望みつつ             名島 靖子
  泉湧く空の青さを押し上げて           中野 東音
  老鶯や知足庵てふ我が栖             守屋 和子
  麦の秋雨あとの風こがねいろ           北尾 きぬ
  ふるさとへ近づく電車桐の花           橋本 爽見
  雨の中鷺草の今飛び立たむ            髙杉みどり
  下闇や音消してゆく上水路            梅原 清次
  まくなぎに手のひらひらと踊りだす        相良 研二
  百尋の滝白竜の逆落し              鵜飼 三郎
  古里の風のそよぎやさくらんぼ          桜井 京子
  心地よき足音半里竹落葉             鵜沼 龍司
  次女からのカーネーションは食卓に        北村加代子
  開け放つ直会殿に積む粽             中村 隆兵
  麻服をまとへば風の通りすぎ           本多ひさ女
  新緑や静かに馬の闘志満つ            栁瀬 彩子
  柿若葉飛行機雲の残す風             増田多喜子
  惜春の鳥の声聞く薄暮かな            國友 淳子
  復帰する職場への道植田かな           上田 古奈
  菖蒲湯は湯屋の親仁の心意気           戸田孝一郎
  新緑を纏ひふくよか比叡山            織田 則子
  こどもの日孫はだんだん少年に          平林 敬子
  朝の日をダリアまあるく受け止めて        大塚志保子
  光り合ひ広ごる水輪余花の雨           佐藤 洋子
  何処にでもあるかの暮らし聖五月         野島 玉惠
  閉学とホームページや若葉寒           二見 歌蓮
  白鷺の雨の田中に昏みゆく            水科 博光
  信号のなき道茅花ながしかな           矢倉 美和
  蝶を追ふ幼子ひよんと浮遊する          井上すみれ
  姉妹らし朝顔市の帰りらし            新谷 雄彦
  玄関のダリア一輪誰を待つ            湯浅あや子
  緑蔭に在るとき娘美しき             小川 幹雄
  薫風や青磁静かに輝きて             城山  実
   
   
     
  令和6年 8月号  
  離れゆく舟見送りて春日傘            中村 優江
  病むことを知らぬ金魚が餌ねだる         𠮷本 海男
  整ひし茶室の静寂窓若葉             磯部 洋子
  桜咲く父の忌日や遠汽笛             北村勢津子
  春寒や我を励ます我とゐて            森本 隆を
  土壁の多き町並春の雨              池田 洋子
  悔いあれば春筍の味尖りけり           髙橋 良精
  惜春や絵筆の先の薄みどり            山本そよ女
  花守となりて小仏関所番             坂戸 啓子
  蒲公英を摘みせせらぎの音拾ふ          石堂 初枝
  降り足りて仄くれなゐの春夕焼          梅原 惠子
  暮るる日と共に暮れゆく藤の花          松井 朱實
  干し魚や清明の陽に身を反らし          鈴木 利博
  やどかりや子の掌に貌を出す           伯耆 惟之
  咲き満つる花になごみてひとりかな        西川 靜風
  瓦斯灯や春愁流すテムズ川            萩原 胡蝶
  花の雨歩幅のそろふ二人かな           皆見 一耕
  気がかりな入院のこと花は葉に          岡本 清子
  墨水に軋む釣り船彼岸西風            澤田 治子
  春の雪大聖堂の静けさよ             石原 盛美
  花冷や電話待ちつつ坐る午後           長野 泰子
  蕗のたう息づき土の和らげる           出口 凉子
  本閉ぢて残り香ありぬ春時雨           髙見 香美
  しつかりとした字で記名入学子          新庄 泰子
  停戦を祈りて飾る甲かな             太田 鈴子
  モネのやうに描いてみたき花筏          塩路 桂風
  故郷の山懐かしき初音かな            行木 信夫
  目を細めたんぽぽの絮いざ吹かん         山奥由美子
  春深しロダンの像の動かざる           森柾 光央
  馬酔木咲く小径の先に志賀旧居          中間 一司
  春の闇フェリー乗り場に辿り着く         羽柴 弘子
  ぶかぶかの制服眩し春の風            上松 順子
   
   
     
  令和6年 7月号    
  桜鯛皿はみ出して誕生日             北尾 鈴枝  
  はなやぎも束の間雛納めけり           上達 久子  
  山葵沢湧水日がな小砂噴き            讓尾三枝子  
  月おぼろ古刹の奥の能舞台            中山 仙命  
  おばんざいの小さきのれん春時雨         松尾 憲勝  
  惜春を詰めてふくらむ旅鞄            大野布美子  
  鎌倉へ峠越ゆるや遠霞              益田 富治  
  真つ向に赤城山あり春嵐             阪田 悦子  
  ゆりかごの形に春の宵の月            北尾 美幸  
  蓬摘む摘みゆくほどに刻忘れ           吉瀬 秀子  
  昏れのこる連翹の黄にまみれたし         太田  稔  
  六十年夢幻や朧の夜               武田 捨弘  
  雨上り初音聞きたる夫の墓            河村 里子  
  輪島椀に花麩を咲かせ雛の膳           須﨑咲久子  
  ゆるゆると煙侍らせ山笑ふ            田中 君江  
  蘖や変はり果てしも吾が故郷           天野  苺  
  せせらぎの唄ひ出したり猫柳           梅田喜美惠  
  湖の水の膨らむ春の鴨              山岡 千晶  
  働ける身のいとほしや春田打つ          田中 節子  
  つくしんぼ遠回りしてめぐり会ふ         松下 和恵  
  雛仕舞ふ幼き娘思ひだし             寺崎 智子  
  耕して無心の時を得てゐたり           和田 秀穂  
  法螺の音や千年杉のひこばゆる          長澤 曈生  
  春愁や亀一匹の甲羅干し             板谷つとむ  
  京橋の瓦斯灯烟る春の暮             渡辺 秀峰  
  たぽたぽと春潮寄せる浜離宮           藤沢 道子  
  春風に背中押されて一人旅            髙橋 能美  
  制服のボタンの記憶卒業期            梶本 圭子  
  春日傘かしげ行き交ふ祇園町           松田 悦正  
  菫草犬の墓のみ暮れ残り             播磨 京子  
  苺狩乙女の白き指踊る              松本 孝子  
  転た寝の夢の続きの残花かな           永井  透  
     
     
       
  令和6年 6月号  
  曇天のされど風無くひひなの日          貴志 治子
  春きざす山の向かうの山の色           竹内 久子
  黙黙とリハビリつづく春の雷           福田 圧知
  背を並べ旗になり切り春闘歌           松尾 苳生
  故郷へ続くこの道福寿草             山下 千代
  雨煙る桂大橋冴返る               𠮷田 鈴子
  花大根夕日を背に帰りけり            清水山女魚
  お点前や五徳静かに炭を抱く           福田真生子
  浜風に従ふ炎吉書揚               坂谷ゆふし
  雪原に蒼き木の影月の影             石浜 邦弘
  手作りの雛はすぐに貰はれて           山田 和江
  紅梅や梢に弾む鳥の声              山田 正弘
  うららなる鉢の黒土ほぐしをり          森田 真弓
  薄紙を解けば雛の笑みこぼる           太田 朋子
  賑はひの長谷の大仏日脚伸ぶ           森  君代
  踏切の古草と待つ一輌車             中森 敏子
  急須より立ちあがる湯気春淡し          谷中 こ夏
  この道は選んだ道よ冬すみれ           柳  爽恵
  祇王寺の奥灯りたる春の雪            今泉 藤子
  門出する娘と飾るひひなかな           岡田 うみ
  泣き虫が語尾はりあげて卒園す          伊藤 泰山
  貝寄や島に移住の若夫婦             野島 玉惠
  潮風の明るき匂ひ菜の花忌            藤原 敏子
  気がつけば鉢一面に桜草             末廣 稔子
  白雲を川面に映し寒明くる            藤井 早苗
  春愁や灯を消してより闇の音           望月 郁子
  春浅し少し色さす鳰の湖             田中土岐雄
  春浅し迷つて決める試着室            奥田 清子
  早春の息吹の並ぶ道の駅             小倉 和子
  菜の花やここで生まれた風を聴く         日比野晶子
  爪立てて画鋲引き抜く多喜二の忌         仲野 由美
  すこやかな余生まとうて日向ぼこ         桑木野 勤
   
   
     
  令和6年 5月号    
  冬萌の里に瀬音の遠くより              中野 東音  
  折紙の竜をどりつつ年新た            千代 博女  
  逃がしたる恋の一札歌かるた           亀山利里子  
  目をつぶりゆつくりつかる初湯かな        岡村祐枝女  
  降る雪や町家の屋根の寄り合ひて         西川 豊子  
  貼らない懐炉ポケットのないズボン        服部 史子  
  瞑想にふける夫の忌寒ざくら           金子 敏乃  
  初電話労り合うて励まして            三村 昌子  
  根菜の味噌汁二つ外は雪             石井 紫陽  
  背に日差しうけてホームの日向ぼこ        池田 小鈴  
  春雨のカフェやはらかきドアの音         島松  岳  
  相模湾見守る寺苑梅早し             鵜飼 三郎  
  鳴く声の濁点太き寒鴉              横川  節  
  御神籤の凶をかしこみ初詣            浅見まこと  
  古庫裡の隅の明るき初暦             中田 定慧  
  満天の星きしきしと底冷えす           中谷 廣平  
  大仏の丸きそびらや冬ぬくし           栁瀬 彩子  
  妻の炊く七草粥の思ひかな            村岡 和夫  
  鴨一羽デコイとなりて浮かびけり         久保木倫子  
  坂多き街へ冬至の朝日かな            柴田久美子  
  幾つもの橋渡り来て明の春            川上 桂子  
  初富士の浮かぶが如く水平線           中島 三治  
  人波の押し寄せてゐる初太鼓           小國 裕美  
  寒桜見下ろす海に潮の道             田中 美樹  
  戦争のニュースの隅に梅便り           中山 克彦  
  余命には触れぬ会話や寒椿            山根 征子  
  待春や農機具みんなよき顔に           栁澤 耕憲  
  飴玉を音立てて噛む久女の忌           中島 佳代  
  炊出しの湯気の漲る冬木の芽           山村 幸子  
  ラジオ聴きつぐ大地震の三が日          二見 歌蓮  
  朝の日に参道の霜輝きぬ             髙橋 昭代  
  皆去んで七草粥の椀ふたつ            廣田眞理子  
     
     
       
  令和6年 4月号  
  山茶花や昼も小暗き山の寺            北尾 きぬ 
  一人居の灯してよりの寒さかな          中島 勝彦
  物干すや日日平穏に年つまる           甲斐 梅子
  ゆつたりととどまる雲や冬浅し          新井悠紀代
  敷松葉ふはりと寄する句碑の裾          町田 珠子
  磴に来て冬至の影の立ち上がる          梅原 清次
  地に返る軽さとなりて落葉降る          小野田紀久子
  躊躇ひつつ冬の桜として咲きぬ          池田 洋子
  煮凝や湖の匂を閉ぢ込めて            山本そよ女
  太陽のまぶしく沈む初冬かな           石堂 初枝
  一すぢの飛行機雲や蒲団干す           大森 收子
  大空に欅の百枝小六月              塩出  翠
  スーパーのかごの山積み十二月          馬場 久恵
  雪吊のゆるみなき縄法の池            間部 弘子
  数へ日のせはしく動く手話の指          皆見 一耕
  姉逝きて庭に真紅の冬のばら           佐野 弘子
  寄り添ひて日差しの中の帰り花          泉  葵堂
  ストーブの薬缶に映すにらめつこ         中村 文香
  授かりし余命しづかに除夜の鐘          秋山 順子
  枕元母の愛せし寒椿               吉岡 裕世
  冬支度主無言で薪を割る             奥本伊都子
  老ゆることも希望となりぬ冬至風呂        椎名 陽子
  柊の花の彼の世へかをりゆく           髙見 香美
  冬晴の光る水面や和歌の浦            國友 淳子
  ひめつばき叔母の笑顔を見る施設         平林 敬子
  睦まじくショートケーキのクリスマス       大塚志保子
  茶の花へ下校のチャイム伸びやかに        佐藤 洋子
  麦の芽や戦を知らぬ子の笑顔           鈴木とみ子
  テーブルに蜜柑のありて二日経つ         矢倉 美和
  初雪や棚に絵本のひしめきて           廣岡トモ子
  船つなぐ綱の軋みや初日の出           中平嘉代子
  神木に紙垂新しき冬日和             小川 幹雄
   
   
     
  令和6年 3月号  
     
  鍵あけて入るわが家の寒さかな          名島 靖子
  百畳の座敷や冬の日を入れて           中村 優江
  小雪や久しく鳴らぬ黒電話            𠮷本 海男
  火祭を終へしばかりの家並かな          磯部 洋子
  海峡の渦の巻き込む冬夕焼            田中 京子
  父母のしらぬ傘寿や暮の秋            中山 仙命
  雲のなき今夜は月と語りをり           川西万智子
  まだ成せる事のあるはず天高し          坂戸 啓子
  ケアハウス長き廊下の冬灯            松井 朱實
  木の実降りけり祭神は猿田彦           森本 安恵
  谷戸の日を集め暮れ行く苅田道          鈴木 利博
  芒花遠く静かに光り合ふ             西川 靜風
  身に入むや思ひ出追へば遠ざかる         萩原 胡蝶
  捨舟の漂ふ水辺冬隣               武田 捨弘
  木の実落つ耳寄せ話聴く羅漢           山本 信儀
  短日や午後の仕事が走り出す           本多ひさ女
  達磨忌や草履一足供へたし            青木 謙三
  父母のなき家の熟柿の落ちにけり         増田多喜子
  冬空へ品評会の牛のこゑ             上田 古奈
  流星や少女の祈り長かりき            出口 凉子
  変はりなく故郷の山河柿日和           櫻岡 孝子
  茶の花の今もなほ咲く廃寺かな          武義  弘
  菊供ふ面面いづれ供へらる            長澤 曈生
  冬ぬくし古家を終の住処とし           長野 泰子
  枝打の谺深山を渡りけり             水科 博光
  老いて尚学ぶ家事あり今朝の冬          坂井 俊江
  新藁の香りを残し田の暮るる           行木 信夫
  信号を渡りきれずや秋思ふと           井上美代子
  客待ちの店主定位置毛糸編む           北村 素子
  玩具めく路面電車や秋夕焼            築山ふみ女
  冬晴やゆつくり溶ける朝の月           播磨 京子
  秋日和琴引浜の風の音              城山  実
   
     
  令和6年 2月号    
       
  月を待つ父母の遺影に寄り添ひて        池内千恵子  
  思ひ出に始まる母と子の夜長          北尾 鈴枝  
  ふり向けばまうしろに立つ秋の影        橋本 爽見  
  かへりみてこんなに生きて枯野人        松尾 憲勝  
  川音は闇に吸はれてちちろ虫          清水山女魚  
  残されて夕陽に拗ねる烏瓜           髙橋 良精  
  岸離れ漕ぎだす船や今日の月          益田 富治  
  新藁の香に包まれて百姓家           光畑あや子  
  傾眠の母を見守る秋の午後           相良 研二  
  高く低く遠く近くを鷹一羽           梅原 惠子  
  縄電車の線路幾筋穭伸ぶ            吉瀬 秀子  
  秋の浜声弓なりにとどきけり          桜井 京子  
  照紅葉背の嬰と振る神の鈴           太田  稔  
  秋夕焼孫と二人の影絵かな           隅山 久代  
  朝顔を蒔きて咲かせて再入院          髙橋 浅子  
  天高し金剛杖の鈴の音             岡本 清子  
  太郎冠者笑ふ社の秋高し            中村 隆兵  
  母戻り来よ逆光に散る銀杏           澤田 治子  
  夫の忌や仏間を抜ける秋の風          田中 節子  
  虫の音とともに講義を配信す          舟木 轍魚  
  人の影踏みて謝る月夜かな           戸田孝一郎  
  白秋や鞘に仕立てる古い朴           松下 和恵  
  満月やただひたすらに輝きて          末廣 稔子  
  金木犀香り辿れば廃寺かな           小畑 順子  
  父母こゆる齢いただき今日の月         望月 郁子  
  湧きいづるごとく次次赤とんぼ         加藤 美沙  
  上段に構へ蟷螂枯れにけり           新谷 雄彦  
  瑠璃色は夜空のかけら臭木の実         奥田 早苗  
  荒縄で薪を束ねて冬支度            山本知恵子  
  消え残るスタートライン秋夕焼         仲野 由美  
  秋雲の心に響く高さかな            古浜 悦子  
  気がつけば母の仕草で芋を煮る         松本 孝子  
     
       
       
  令和6年 1月号  
     
  たんたんと流るる暮し走馬灯           上達 久子
  蓑虫の揺れていのちの軽さかな          森本 隆を
  花芒さみしき時は野を歩む            髙杉みどり
  若狭へとつづく街道露むぐら           大野布美子
  神門の天狗月夜に遊ぶらし            坂谷ゆふし
  秋風や長椅子一人づつ座る            中田 節子
  百枚の田ごとの色に稲熟るる           中畑  耕
  髪きつく束ね秋思を断ちにけり          北尾 美幸
  市街地の田圃三反稲の波             鵜沼 龍司
  秋初め武蔵野の空青青と             北村加代子
  肩車の小さき手の捥ぐ林檎かな          須﨑咲久子
  天高し子等の歓声なほ高し            梅田喜美惠
  切らさずに沸かして冷ます麦茶かな        西澤 照子
  秋茄子の傷も味はふ夕餉かな           栁瀬 彩子
  朝顔や海まで続く小道あり            柳爽  恵
  一年を皆で持ち寄る盂蘭盆会           新庄 泰子
  漆黒の海果てしなし天の川            中島 三治
  指先に少しの力桃を剥く             岡田 うみ
  立膝の羅漢へ落つる一葉かな           中島 文夫
  打たれたる魚板のへこみ秋深し          藤原 敏子
  琅玕を色なき風の抜けゆけり           和田 秀穂
  たそがれの吐息となりぬさるすべり        板谷つとむ
  オラショ聴く島の教会秋日燦           今泉 藤子
  モノクロの写真の数多震災忌           渡辺 秀峰
  名月の照らす呼吸器母の窓            二見 謙治
  掌の中に眠る文鳥秋思ふと            小倉 和子
  子等眠り母の一日を月あかり           山村 幸子
  足もとの木洩れ日揺るる秋うらら         芝山 栄子
  稲穂垂る真田の郷に武勇伝            栁澤 耕憲
  ふかし薯半分あげる仲直り            井上 恵子
  さやけしや金色のこる観世音           中間 一司
  花薄しなやかに揺れ夢二の忌           田中土岐雄
   
     
     
  令和5年 12月号  
  武蔵野にふくらむ入日橋涼み           中野 東音
  テーブルに折鶴置いて広島忌           竹内 久子
  今生を享けし同士よ油蝉             福田 圧知
  大槻の影濃く伸びて地蔵盆            町田 珠子
  初秋の波に漂ふごと二度寝            池田 洋子
  走馬灯みんな回つてみんな影           亀山利里子
  りろりらとリュートの語る秋初め         西田 幸江
  亡き友の句入りの扇子風さやか          阪田 悦子
  あと戻り出来ぬ人生蝸牛             山田 正弘
  山一つ一つの起伏秋の空             森田 真弓
  夕焼へ尻取りをして母子ゆく           伯耆 惟之
  瑠璃色に朝風染めて螢草             太田 朋子
  秋めくや木綿豆腐の舌触り            浅見まこと
  山に住む作家の皿や葡萄食む           中田 定慧
  さらさらと風の文字生む稲田かな         中谷 廣平
  状差しに古き絵はがき秋めけり          谷中 こ夏
  踊子の鳴子は雨を撥ね返し            田中 美樹
  川霧の甲州街道夜明け前             中山 克彦
  兜虫そろりと摑む小さき手            石原 盛美
  生乾きの舗装道路や終戦日            小國 裕美
  力つくる蟬に容赦のなき日差し          國友 淳子
  このみちは母と来た道曼珠沙華          山根 征子
  焦げ鍋をうるかして寝る厄日かな         伊藤 泰山
  鳳仙花あれは初恋だつたのか           久保木倫子
  くいくいと乳飲む孫や青田風           藤沢 道子
  竜田姫裾捌きつつ下山かな            野島 玉惠
  かぎりあるこの身を生きて凌霄花         日比野晶子
  波曳きて行き交ふフェリー夏惜しむ        髙橋 昭代
  りんご浮かぶ湯舟の眩し信州路          小川 幹雄
  大花火次は此処よと昇り笛            二見 歌蓮
  月涼し夜風が酔ひをつれてゆき          髙橋 能美
  頼もしき親になりたり盆帰省           廣田眞理子
   
     
  令和5年 11月号    
  大西日背負ひておりる琵琶湖岸          千代 博女  
  堰取るやもんどりうつて田水落つ         讓尾三枝子  
  八の字にくぐる八十路の茅の輪かな        久留宮 怜  
  どこまでも青き朝空梅雨明ける          新井悠紀代  
  夕涼やヴェニスの路地の立飲み屋         中山 仙命  
  紫蘇もんで生命線の染まりけり          山下 千代  
  バス停に手書のダイヤ夏祭            山本そよ女  
  蟬声を命惜しめと聴きにけり           西川 豊子  
  大き影ゆらし黒揚羽の無音            服部 史子  
  ガム踏んで靴奪はれし炎天下           石堂 初枝  
  高原の空の輝き小鬼百合             鵜飼 三郎  
  古稀祝ふ女三人さくらんぼ            間部 弘子  
  砂灼くる浜に昭和のゴム草履           皆見 一耕  
  足裏は白くて綺麗晩夏光             横川  節  
  麦わら帽自給自足の畑に出で           田中 恒子  
  梅雨あける山喝采の雲放ち            中畑  恵  
  炎昼や道に貼り付く家の影              山本 信儀  
  笹のみの星合の夜や老夫婦            武  義弘  
  敗者への敬意忘れず夏椿             寺崎 智子  
  母からの浴衣今年も袖通す            吉岡 裕世  
  遠く病む息子はいかに百日紅           椎名 陽子  
  蓮池に父母ゐるはずのあの世見る         太田 鈴子  
  かなかなのただかなかなの朝かな         上田 古奈  
  捨て瓶に夕立後の光さし             山岡 千晶  
  炎暑にも耐ふる野菜の深き味           名嘉 法琉  
  駒草の色増す尾根の夜明かな           水科 博光  
  夏旺ん潮の匂のバスに乗り            中島 佳代  
  風鈴の織りなしてゆく音色かな          大塚志保子  
  孫つれて陰なき道や墓参             松田 悦正  
  梅雨明や機種変更に迷ひをり           北村 素子  
  吊忍つるやたもとに風のきて           髙橋 賀代  
  サングラスかけて深海魚となりぬ         築山ふみ女  
     
       
       
  令和5年 10月号  
  月下美人月の色してひらきゐる          北尾 きぬ
  ががんぼや系図に探す我が名前          中島 勝彦
  路地奥へ連なり咲くや雪の下           北村勢津子
  薫風を待たせて潜る躙り口            島本 方城
  太宰忌の下連雀といふところ           松尾 憲勝
  六月の富士海の上雲の中             梅原 清次
  栗の花施設入所を決めし友            𠮷田 鈴子
  朝まだき茄子の畑に鋏の音            福田真生子
  水無月の有りと老舗や梅雨晴間          坂戸 啓子
  ホルンの音森に溶けゆく開山祭             石浜 邦弘
  父の日や象牙パイプの琥珀いろ          池田 小鈴
  朝刊の湿りて届く櫻桃忌             大森 收子
  草を取る庭に奥行もどりけり           塩出  翠
  それぞれに生きて集ひし盆踊           坪井たまき
  いにしへの薫風流る法隆寺            中森 敏子
  馬籠宿妻籠宿へと風薫る             天野  苺
  暗闇の梔子の香を持て余し            本多ひさ女
  河骨の一輪雨の池暝し              柴田久美子
  南風吹く沖の黒潮うねらせて           澤田 治子
  五月雨や渋滞つづく帰り道            青木 謙三 
  銭湯や行きも帰りも夏の月            奥本伊都子
  サドルに座し何処へ行くのか雨蛙         織田 則子
  生ハムをはんなり羽織るメロンかな        櫻岡 孝子
  打水や朝な夕なを母真似て            塩路 桂風
  ひらひらと明るさを撒く梅雨の蝶         井上美代子
  新しき鉛筆削る梅雨籠              坂井 俊江
  風を連れ五月の空へリフト行く          佐藤 洋子
  はるかなる山のふくらむ風五月          田端加代子
  晴れを待つ間にも実梅の落ちにけり        長野 泰子
  手作りの不揃ひすぎる心太            廣岡トモ子
  梅雨晴間歌も載せたる縄電車           三宅稀三郎
  我が家より発ちし一羽か燕の子          播磨 京子
   
     
     
  令和5年 9月号  
  新緑に吸ひこまれゆく谺かな           北尾 鈴枝
  日を水のごとくに湛へ柿若葉           橋本 爽見
  春雨やいづれ引かれる庭の草           𠮷本 海男
  母の日や久しくささぬ紅をさす          甲斐 梅子
  母と子の母校は同じ桐の花            村田 近子
  干拓地一色にして麦の秋             須藤 篤子  
  剥落の阿吽の像や黄砂ふる                    清水山女魚
  水平線眺め歩くよ遍路径             光畑あや子
  若楓関守石をぽんと置く             相良 研二
  生きてゐるだけで良いとてカーネーション     山田和江
  クロワッサン香れるカフェや若葉風        石井 紫陽
  百姓のまねして余生茄子を植う          吉瀬 秀子
  藤棚へ試運転なり車椅子             桜井 京子
  夕心庭の牡丹に預けをり             鈴木 利博
  山桜桃一粒喰みて一人かな            河村 里子
  降る雨を背負ふ憂ひや牡丹散る          田中 君江
  グランドの砂の白きも夏めける          泉  葵堂
  入院の子の髪を結ふ聖五月                    中島 文夫
  なま白き腕を晒して更衣             戸田孝一郎
  大声で泣く児の眩しこどもの日          川上 桂子
  あいの風一斉に牛鳴きはじむ           松下 和恵
  春の宵そつと寄り添ふ星と月           末廣 稔子
  鯉のぼり空を見上げて風を待つ          藤井 早苗
  桟橋を白波洗ふ青嵐               村岡 和夫
  緑さす子らの真白き制服に            中間 一司
  アマリリスマリオネットの機嫌よし        小畑 順子
  麦秋の入日をバスの横切れり           水科 博光
  宵宮や亡き妹とすれちがふ            新谷 雄彦
  万緑や赤子乳房に吸ひつきぬ           行木 信夫
  米粒が星になる朝花南天             矢倉 美和
  母の日の静かに崩すオムライス          小川 幹雄
  宇治川の流れにのりて春のゆく          松本 孝子
   
     
  令和5年 8月号  
  初音聞く夫の墓前にぬかづけば          守屋 和子
  大文字背に藤の花垂れて             磯部 洋子
  山桜点点雑木山静か               森本 隆を
  亀鳴くや親より永く生きてをり          小野田紀久子
  たんぽぽの絮校門へ先回り            亀山利里子
  大鯉の背鰭の払ふ花筏              髙橋 良精
  朝市の竹の子縄にくくられて           中田 節子
  春風や湖の芯より波生まる            中畑  耕
  投票をすませ四月の句座につく          梅原 惠子
  茶処に思ひを馳せる夏のれん           金子 敏乃
  春光や山をそびらに和歌の浦           馬場 久恵
  春惜しむ造幣局の出口かな            萩原 胡蝶
  葱ばうずこつんこつんと吹かれけり        秋山 満子
  天上より香り広げし桐の花            佐野 弘子
  春風もまぜて田んぼのにぎり飯          梅田喜美惠
  桜しべ降るや千回目の素振り           中村 文香
  新しき口紅のいろ風光る             柳  爽恵
  銅板の社の屋根や八重桜             小國 裕美
  うららかや格子模様の和服着て          中山 詔義
  国訛り時時出づる蓬餅              田中 節子
  高き声残れる空や雁帰る             中島 三治
  チューリップことりと散りてひとりの夜      田中 美樹
  春愁や歌ふことなき楽譜積む           田辺 正和
  枝垂桜灯ともりてより可惜夜に          和田 秀穂
  阿夫利嶺の母衣のごとくに若葉せり        望月 郁子
  花冷えや白衣の裾の翻り             渡辺 秀峰
  房総や菜の花香る無人駅             藤沢 道子
  若葉風籠の文鳥はたたきぬ            小倉 和子
  夫向かう我はこちらと畑打            加藤 美沙
  おだやかな野路や又兵衛桜まで          鈴木とみ子
  千年の深き香りや藤の花             山奥由美子
  掌の鼓動や子猫抱いて寝る            日比野晶子
   
     
     
  令和5年 7月号  
  春愁の町角いくつ曲がりしや           吉岡 杏花
  黒髪をゴムで束ねて卒業す                     中村 優江
  雛の軸掛けて子のなき老夫婦           池内千恵子
  猫柳剪る音水に吸はれけり            髙杉みどり
  亀鳴くや時折止まる大時計            町田 珠子
  春日野や馬酔木の花の盛りなり          岡村祐枝女
  しゃぼん玉飛べば昭和の景色かな         益田 富治
  おほかたは寝かせ売らるる吊し雛         北尾 美幸
  それぞれに昭和語るや春炬燵           山田 正弘
  師亡きあと日のたちやすし桜散る         松井 朱實
  ここからは神の域なり梅真白           森田 真弓
  子育ての記憶を辿る雛の夜            森本 安恵
  春の夢亡き夫の声聞けもせず           隅山 久代
  転た寝とうつつのさかひ春の昼          浅見まこと
  沓の音夜気に響かせ修二会かな          中田 定慧
  紙風船言へぬ言葉を吹き入れて          中谷 廣平
  野を渡る風は芽吹きを急がせて          谷中 こ夏
  おくれ毛に手をやる舞妓初桜           栁瀨 彩子
  淡色に惹かれて求む春ショール          上田 古奈
  春耕の音重なりし里日和             岡田 うみ
  遠き日の風の音聴く春愁             中澤 朋子
  弁当の中に小さき春を詰め            吉岡 裕世
  ハンガーの制服見つめ卒業子           寺崎 智子
  晴るる日の風より軽きいかのぼり         中山 克彦
  花の雲碧き甍は武道館              太田 鈴子
  廃屋に光ふたたび花ミモザ            武  義弘
  声高き答辞や吾子は卒業す            舟木 轍魚
  掌に縷縷とささめくひひなかな          今泉 藤子
  春風や三年ぶりに紅を買ふ            龍川游楽蝶
  蝶ひらり友の絵のある絵画展           梶本 圭子
  大欅芽吹く梢は風を知り             板谷つとむ
  蒲公英のぎゆうぎゆう詰めや休耕地        栁澤 耕憲
   
     
  令和5年 6月号  
  光曳く鳥や二月の多摩川原                       中野 東音
  早春の日差しをすくふオールかな                 中島 勝彦
  大試験終へて遠山見つめる子            竹内 久子 
  菜の花に巨船ゆつたり浮き沈み                  田中 京子
  うちの子になる運命の子猫かな                  大野布美子
  玄関に友のステッキ春を待つ                   阪田 悦子
  さへづりの他に音なき鎮守かな                  坂谷ゆふし
  冬青空百四歳の叔母送る                          服部 史子
  音といふ音包みこみ雪の黙                       石浜 邦弘
  シャンシャンを見送る人や春の雪               伯耆 惟之
  陽炎や波音とどく無人駅                           太田 朋子
  源平の戦場洗ふ春の潮               皆見 一耕  
  手作りの思ひあふるる古雛                       岡本 清子
  冬ざるるこの世の果てか野付崎                  北村加代子
  春の闇おこぼの音の遠ざかり                    中村 隆兵
  笛太鼓里を巡りて伊勢神楽                       西澤 照子
  一礼をして除雪車を見送りぬ                    新庄 泰子
  痩身の弥勒菩薩や春寒し                            岡本 和男
  ぼちぼちと遺品の整理二月尽                     久保木倫子
  島と島重なりあうて霞む瀬戸                     増田多喜子
  霊祀る部屋にせましと雛の段                     秋山 順子
  春風や制服の子等撫でゆきて                     髙見 香美
  ドレープの襟に十字架風光る                     澤田 治子
  点滴のひとつぶづつの余寒かな                 東山美智子
  コーヒーのふくらむを待つ春日かな         築山ふみ女
  佐保姫の衣ずれ過ぐる山野かな                   大塚志保子
  風よりも日差しに春の気配あり                   井上美代子
  味噌搗や三年越しの顔ぶれよ            芝山 栄子
  春雷やポーランドよりエアメール                中平嘉代子
  乙女椿神籤見せ合ふ二人かな             山本知恵子
  来ぬ友の席詰めて座す二月尽                     仲野 由美
  割らぬやう撫づる児の指薄氷                        二見 謙治
     
     
  令和5年 5月号  
  繭玉のにぎはひ部屋を寂しうす                  福田 圧知
  みちのくに不老不死の湯雁供養                  久留宮 怜
  善き顔と夢を持ち寄る初句会                    島本 方城
  山彦のひろがる空や梅探る                       杉山 通幸
  実朝の札は取りたき歌留多かな                  中山 仙命
  天地もみやびの京に初松籟                       松尾 苳生
  お囃子のひびく明神町二日                       梅原 清次
  見るだけの畑となりて初日さす                  山下 千代
  風惑ふ水仙を吹き吾を吹き                       清水山女魚
  麦の芽のはや風知りて日を返す                  大森 收子
  霊峰の凍滝に入る光かな                          島松  岳
  筑波嶺の山並はるか冬の虹                       鈴木 利博
  二十指をむすんでひらく冬の朝                  鵜沼 龍司
  山眠る峠の茶屋の灯も絶えて                      武田 捨弘
  痩せてなほ心和ます雪だるま                   田中 睦美
  会葬の帰路に出会ふや冬桜                       中森 敏子
  蒼天へ透く臘梅の香りけり                       須﨑咲久子
  冬の蠅無用の艶を持ち歩く                       中畑  恵
  どんど焼朝を賑はふ町内会                       山本 信儀
  的を射て笑顔にもどる弓始                       本多ひさ女
  霜柱踏むや地球の窪む音                          山根 征子
  楮干す白き山里良く晴れて                       山岡 千晶
  煮凝や詫びねばならぬ友のをり                  中島 文夫
  開演待つ白き譜面の淑気かな                    柴田久美子
  図子抜けて鼓の響き松の内                       塩路 桂風
  あれこれと鞄に詰めて春を待つ                  平林 敬子
  上賀茂の神馬を撫でる初松籟                   山村 幸子
  裸婦像を雪こまやかに包み降る                  中間晋一郎
  助手席の白木の箱や冬深し                       森柾 光央
  オレンジも黄も好きな色毛糸編む               長野 泰子
  青い目のハスキー犬も寒の入                   二見 歌蓮
  七草の静かな朝餉又ふたり                       廣田眞理子
     
     
  令和5年 4月号  
  ふと気づき日記にしるす開戦日                  名島 靖子
  キックボード木の葉時雨を突つ切つて           上達 久子
  独り居の灯を煌煌と毛糸あむ                     讓尾三枝子
  風を呼ぶ力残して枯尾花                          須藤 篤子
  捨てきれぬアルバム繰りて小春の日             川西万智子
  玄関の大きなこけし雪の宿                       山本そよ女
  眠らざるもの懐に山眠る                           西田 幸江
  加太岬小春の空に舞ふドローン                  福田真生子
  木枯や歪みて廻るレコード盤                      西川 豊子
  駅に降り京の寒さにほつとして                   池田 小鈴
  綾とりの橋をかけたる孫と祖母                   吉瀬 秀子
  落葉踏む大地の声を聞きながら                   塩出  翠
  人生の旅の途中や納め句座                        桜井 京子
  近江路を絹のひかりの冬芒                        西川 静風
  夫想ふ幾歳月や霜の花                             森  君代
  冬夕焼我の背に星ひとつ                            日野 満子
  はからずも臘八に粥すすりけり                   青木 謙三
  背を見せて農夫一人の焚火かな                   國友 淳子
  日に坐して目の無き達磨年暮るる                市川 幸子
  過ぎし日の苦労もうすれ古日記                 出口 凉子
  年用意終へし神苑鎮もれり                        藤原 敏子
  裸木に日矢を通して落暉かな                     村岡 和夫
  一年の思ひ巡らし聖菓焼く                        櫻岡 孝子
  金色の香の柚子湯浴ぶ白髪かな                   長澤 曈生
  樅の木にも台詞のありて聖夜劇                   新谷 雄彦
  モノクロの庭山茶花の散り急ぐ                佐藤 洋子
  切株に負けぬ齢の日向ぼこ               野島 玉惠
  捨てるには惜しき端切れよ一葉忌          望月 郁子
  飾り窓ポインセチアの自己主張                 奥田 清子
  クリスマス生後五日の孫を抱く                  小畑 順子
  ゆらゆらと水路の魚も日向ぼこ                  播磨 京子
  日溜りの母ちやん床屋年の暮                   水科 博光
     
     
     
  令和5年 3月号  
  死はいつも身近にありて煮大根                  橋本 爽見
  逝きし人の写真見直す夜の長し                  千代 博女
  三万日生きて他愛もなき秋思                     森本 隆を
  境内の光あつめて銀杏散る                       村田 近子
  一刷毛の雲あり空は秋の青                       新井悠紀代
  よく眠る母の呼吸や冬うらら                    𠮷田 鈴子
  猫の尻はたきひとりの日向ぼこ                  北尾 美幸
  ぽつり点く町屋の明かり初時雨                  相良 研二
  沢庵を炊いて昭和をなつかしむ                  籔下 美枝
  木の実降る森に夕日の迫りけり                  山田 正弘
  秋日和卒寿も過ぎて白寿迄                       青木 テル
  蹲踞を磨き上げたる小春かな                      馬場 久恵
  夕空の幽さに残す木守柿                         太田  稔
  冬落暉あす閉店の文具店                           横川  節
  井戸水の弾けてゐたり芋洗ふ                      河村 里子
  綿虫の風に逆らひ寄り添ひ来                     泉  葵堂
  鐘六つ撞かれて朝の花八手                    中田 定慧
  鴨鳴きて川面の茜薄れゆく                       田中 美樹
  前通る人に声かけ日向ぼこ                       戸田孝一郎
  ボサノバの似合ふ居酒屋秋ふかし                柳  爽恵
  小春日や直哉旧居のガラス窓                    田辺 正和
  森の中葉擦れの音に冬日さす                      石原 盛美
  つまづきし石の小ささやそぞろ寒                田中 節子
  菜箸のすうつと刺さる煮大根                    寺崎 智子
  裸木となりなほ高さ競ひけり                    伊藤 泰山
  色見草かき分け登山電車行く            鈴木とみ子
  奥嵯峨をめぐる畦道初しぐれ                    中間 一司
  凍星の光に触れる肌かな                         松田 悦正
  落葉踏む一人の時を楽しめり                     田中 せつ
  爪引けるギターの調べ冬に入る                  日比野晶子
  チャルメラは昭和の音色冬の夜                  栁沢 耕憲
  図書館の絵本コーナー冬うらら          井上 恵子
     
     
     
  令和5年 2月号  
  ふるさとへ各駅停車花すすき                   中野 東音
  山からの風の乗せくる秋の声                   北尾 きぬ
  白菊を活けて微かな風を知り                   髙杉みどり
  歌麿のをんなの憂ひ月夜茸                      松尾 憲勝
  秋の海浄土ヶ浜に石を積み                      松川ともはる
  コスモスの畑へ風の渦幾重                      池田 洋子
  捨てきれぬ程のものなく冬隣                   益田 富治
  月光の雫垂るるや斜張橋                        坂谷ゆふし
  手を伸べて触るる蛇笏の芒かな                 中畑 耕
  路地裏に昔をさがす秋の暮                      光畑あや子
  輝ける雲に乗せたる秋思かな                    三村 昌子
  小栗栖は終の住処よ秋日和                      石堂 初枝
  秋暮れて古里を恋ふ夜汽車の灯                       山田 和江
  プロレスも落語も好きで古酒の夜                石井 紫陽
  手を挙げて淋しいと書く秋の空                 松井 朱實
  この在に住みて幾年刈田風                      森本 安恵
  旧道に並ぶ石仏赤のまま                         鵜飼 三郎 
  紅葉晴れ耳で風読む牧の馬            中谷 廣平
  橅の森落葉の下を忘れ水             中山 克彦
  四方の風受けてあしらふ芒原           川上 桂子
  皆駅へ駅へと朝の落葉道                        中澤 朋子
  秋蝶やそつと窓辺に翅ひらく                  椎名 陽子
  鹿の声応ふる声のなかりけり                    新庄 泰子
  瓢には瓢の思ひあるならむ                      舟木 轍魚
  晴天を右岸に寄せて秋の川                      東山美智子
  欄干の花紋に翳り色葉散る            小倉 和子
  木守柿空に孤高の風そよぐ            篠田 裕司
  秋雨や鉄平石の錆の色                            坂井 俊江
  追悼の演説沁むや秋の雨                         渡辺 秀峰
  消えかかる線引き直す運動会           肥沼 孝明
  サックスが泣きて銀座の夜長かな         龍川游楽蝶
  名月の光の底に森眠る                           髙橋 賀代
     
     
令和5年 1月号  
くつきりと雲寄せつけず今日の月        貴志 治子
玉入れの球は赤白天高し            中村 優江
晩年の奇しき縁や百日紅            守屋 和子
ファッション誌開けば届く萩の風        北尾 鈴枝
人愛しひとに愛され秋深む           伊藤 道子
葛の葉の虜となりて家二軒           甲斐 梅子
誰も居ぬ秋の砂浜きゆつと泣く         田中 京子
乱れ萩括れば一枝残りけり           小野田紀久子
誰を待つ訳でもなくて花野道          亀山利里子
ひとひらの雲を浮かべて天高し         岡村祐枝女
青空のあくまで高く敗戦忌           石浜 邦弘
物影のみな淡くなり秋彼岸           太田 朋子
キャラバンの迷はず進む星月夜         萩原 胡蝶
頂は白雲の中豊の秋              秋山 満子
同年の患者親しき秋の窓            高橋 浅子
朝露を蹴散らし始動コンバイン         田中 恒子
長子ゐて末つ子のゐて榠樝の実         中畑 恵
丁寧に水加減して今年米            西澤 照子
鮭のぼる川滔滔と日を返し           柴田久美子
初秋の波は日差しを紡ぎをり                    小國 裕美
離宮田の稲穂ゆるるや遠比叡          岡田 うみ
休暇明カッターシャツの輝きて         中島 三治
秋風に松を残して庭師去ぬ           久保木倫子
老木の洞の深さや虫の闇            澤田 治子
名月を追ひかけて行く列車かな                 平林 敬子
朝霧の包む城跡一揆の碑            今泉 藤子
新米の粒を立たせる土鍋炊き          梶本 圭子
秋祭誘ひ太鼓に急ぎ足             行木 信夫
ここからは下る坂道草の花            三宅稀三郎
枝切りて空整ひぬ庭の秋             板谷つとむ
秋蝶のつと目の前にたたら踏む          加藤 美沙
山寺の鐘しづもりて月見酒            髙橋 能美
   
   
令和4年 12月号  
風鈴に誘はれ露地に迷ひ入る           中島 勝彦
残されて仏へ炊きし零余子飯           北村勢津子
みち潮の川遡る晩夏光              久留宮 怜
夏燕造り酒屋の若杜氏              中山 仙命
天水の満満にゆれ盆の月             町田 珠子
人の輪のやがて踊の輪になりぬ          大野布美子
揚花火終はり独りと気付きけり          山下 千代
秋澄むや山ふところにベーカリー         髙橋 良精
立秋や期限切れたるパスポート          山本そよ女
葦原に波よ隅田の屋形船             坂戸 啓子
落蝉を拾うて我を想ふなり            岡田 慶子
一天に蕭白の龍鱗雲               梅原 惠子
白芙蓉咲きたる峡の夜明けかな          大森 收子
砂浜の砂を均して秋の風             吉瀬 秀子
畳紙に姉の面影土用干              谷田アイ子
つくつくし兵士の墓の林立す           間部 弘子
青田波千の棚田を駆け登る            須﨑咲久子
新涼や頬に腕に首筋に              天野 苺
蜩や最終バスが出ると言ふ            梅田喜美惠
青葉して千古を今に古墳群            岡本 和男
一湾に架かる大橋秋燕              藤原 敏子
ワクチンを打ちし夕暮れあきつ増ゆ        上田 古奈
山風に遅れて揺るる秋簾             増田多喜子
紅色に筆先ほどの蓮ふふむ            奥本伊都子
タクシーに小字を告げて帰省かな         和田 秀穂
終業のチャイム秋めく町工場                      水科 博光
朝凪の大河こぎゆく小舟かな           藤沢 道子
海からの風の小径や盆の月            中島 文夫
不器量と書き添へてある茄子届く         田端加代子
新涼やジェットフォイルの発つ港         野島 玉惠
語らひし卓に季寄せと秋思かな          新谷 雄彦
固く髪結ひたる朝や原爆忌            仲野 由美
   
   
令和4年 11月号  
茄子漬の紫紺に染まる小さき幸       吉岡 杏花
ひまはりの果てなく続く旅愁かな      上達 久子
諾へば老いは易きよみちをしへ       福田 圧知
読み掛けのページ探しぬ昼寝覚       島本 方城
蝉のこゑ杜を大きく揺すりけり       杉山 通幸
炎天や影は歩幅をはみ出さず        梅原 清次
図書館の卓に置きある夏帽子        清水山女魚
かたつむり角は悲しきそぶり見せ      西田 幸江
虹消えてふと故郷のこと憶ふ        山田 正弘
家毀つ音はたと止み夕涼し         森田 真弓
林間に四葩波打つ三室戸寺         伯耆 惟之
かたはらに居てほしい人夏の宵       隅山 久代
閻王の射る眼光や酷暑中          森  君代
時計草思ひ思ひの時刻む          田中 君江
青鷺の行きて夕闇深まれり         中田 定慧
炎暑へと駆け出し海の子となりぬ      中村 文香
沖をゆく船影一つ大夕焼          山本 信儀
墓洗ふ寺解散を詫びながら         出口 凉子
足し水に花びら揺らす水中花        本多ひさ女
打ち寄せる波に光や海開          織田 則子
夏空やひかうき雲と飛行機と        國友 淳子
暗闇となりて終はりぬ庭花火        秋山 順子
白桃や丸ごと人を愛したい         柳  爽恵
しゆんしゆんと昭和の音し麦茶沸く     山岡 千晶
神楽坂浴衣芸子の颯爽と          中山 詔義
サングラスして仁王立ち五歳の子      曲田 章子
捩花はまつすぐ立つてゐるつもり      二見 歌蓮
山深き御倉の巌滴りぬ           塩路けい子
風死せり盥に浮かぶブリキ舟        太田 鈴子
いざいざと親子いくさの草矢射る      武  義弘
朝顔やわが庭のへそここにあり       矢倉 美和
月下美人自己主張して独りかな       森柾 光央
   
   
令和4年 10月号  
青葉風絵とき説法名調子             名島 靖子
夫看取る忙中閑の春の月             池内千恵子
吊橋を引つぱつてをり蜘蛛の糸          橋本 爽見
合歓の花やさしい人になりに行く         磯部 洋子
明け易しこの世に長居して飽きず         森本 隆を
句を詠むといふよろこびの五月来る        村田 近子
木道の果てなる夕日閑古鳥            須藤 篤子
ささゆりや案内の巫女の裾揺れて         池田 洋子
万緑の戦国城址雲流る              坂谷ゆふし
山一つ越せば伯耆よ麦の秋            中畑 耕
白靴やこの健康のいくつまで           服部 史子
道すがら尼寺を訪ふ麦の秋            籔下 美枝
夕さりて鴉の声や沖縄忌             石井 紫陽
八合目よりは鎖場雲の峰             皆見 一耕
子供より父のよろこぶ鯉幟            坪井たまき
眠ることの多くなる夫沙羅の花          河村 里子
過疎さらに進みてさらに蛍増え          中村 隆兵
平和なる日日に感謝す麦の秋           日野 満子
干すシャツのしわを伸ばせば雲の峰        栁瀬 彩子
端居して遠き記憶をひもとけり          吉岡 裕世
ふるさとに置き去りの夢遠き雷          市川 幸子
肩書はただの主婦なり夏帽子           谷中 隆子
薄暗き店に葛切り光りをり            青木 謙三
雨蛙息を潜めて何思ふ              末廣 稔子
髪束ね始まる一日梅雨に入る           藤井 早苗
魂は天にあづけて昼寝かな            山根 征子
更衣いつも元気な振りをして           東山美智子
白南風や運河騒めくシャトル船          櫻岡 孝子
むさし野の風にかがよふ青芒           佐藤 洋子
夏蝶や追ふ幼子にもつれ舞ふ           山奥由美子
誰を待つでもなき庭に水を打つ          伊藤 泰山
九輪草思ひ出つきぬ山の友            田中 せつ
令和4年 9月号  
山びこの声やはらかき若葉山           竹内 久子
捩花を咲かせて婆の反抗期            讓尾三枝子
月山にまづは一礼さくらんぼ           松尾 憲勝
白地着て英雄を聴く凭れ椅子           松尾 苳生
菖蒲湯の菖蒲の長さもてあまし          吉田 鈴子
元気かと日日草が問うてくれ           川西万智子
葉桜の蔭にひたすら素振りの子          福田真生子
つれだちて越前平野麦の秋            阪田 悦子
鳥声の嘻嘻と繁りの目覚めけり          西川 豊子
麦秋の吹く風は黄よどこまでも          光畑あや子
夕ざれにほどける色や山の藤           池田 小鈴
歳月を幹に刻みて椎若葉             塩出 翠
山に来て山の声聞く暮春かな           桜井 京子
武蔵野に音なき雨や茄子の花           鈴木 利博
誰がためや御所から嵯峨へ虹の橋         鵜沼 龍司
麦秋や日輪赤く沈みゆく             太田 朋子
薫風や比良の山並濃く淡く            西川 静風
小でまりや小雨に白さ際立ちぬ          中森 敏子
てんたう虫農夫の手首めぐり発つ         中畑 恵
麦の秋乾く風吹く畦の道             川上 桂子
清正の城を見上ぐる鯰かな            中山 克彦
狛犬は嘉永の寄進樟若葉             戸田孝一郎
烏城背に白無垢写す青葉風            石原 盛美
ワンタッチ傘は花柄走り梅雨           田中 節子
薔薇アーチ表札ふたつ掲げゐて          澤田 治子
母の日のカーネーションの白さかな        久保木倫子
島原の西門跡や五月闇              廣岡トモ子
川風もいにしへぶりや賀茂祭           中間晋一郎
車前草の花立ち上り轍跡             坂井 俊江
鉄線を一輪外す花鋏               今泉 藤子
羅の姿美し京の宵                小林 昇
むらさきの透ける茄子の滴かな          肥沼 孝明
   
令和4年 8月号  
蔵町の柳隠れに舟のゆく         中野 東音
山内は花の盛りや東大寺         守屋 和子
藤房や風のもつれを風のとく       北尾 きぬ
ふらここの影遠のきて近づきて      中島 勝彦
良き陽射し良き風ありて散る桜      新井悠紀代
振り向けば今日が暮れゆく山桜      山下 千代
夕暮れは何故に淋しや葱坊主       亀山利里子
空き家にも残りし屋号燕来る       中田 節子
春愁や細くこぼるる砂時計        北尾 美幸
囀の重なり樹樹の明るしや        金子 敏乃
花屑を銜へては吐く鯉の口        大森 收子
花の昼鎌倉彫の工房に          馬場 久恵
花の雲儚きまでの昼の月         太田 稔
逃げ水を追つてハーレーダビッドソン   萩原 胡蝶
ドーナツの穴の歪みや春の行く      田中 睦美
朝の日を受けたんぽぽの百の絮      秋山 満子
親も子も跳ねはね過ぐる夕桜       岡本 清子
からまつて子猫眠れる膝の上       須﨑咲久子
夜具干して一夜春日の中に寝る      中谷 廣平
一望の湾の内外初燕           田中 美樹
うららかや母から子への京言葉      柴田 久美子
葉桜に風の行きあふ城址かな       増田多喜子
春風を少し入れたる四畳半        岡田 うみ
湧き出づる湯に身をゆだね春惜しむ    椎名 陽子
産土の風知りつくし紅枝垂れ       岡本 和男
淀川の渡り場跡や猫柳          田辺 正和
田植機が進む緑の破線引き        長野 泰子
風光るアイロン軽く滑らせて           山村 幸子
野に山に光撒きゆく若葉風        板谷つとむ
山伏の花の奥行く吉野山         鈴木とみ子
二年を語り尽くせぬ春の夜        龍川游楽蝶
花の昼留守は写真の夫まかせ       出江 忠子
   
令和4年 7月号  
山すそに残る古民家落椿 千代 博女
余生なほ昭和に執し亀の鳴く 高杉みどり
タクシーの隠れて休む花の昼 中山 仙命
大樹の枝雲もろともに剪定す 町田 珠子
草千里野焼の煙残る朝 松川ともはる
水紋は風のあしあと春の池 大野布美子
若布刈ざくりざくりと軸を切る 高橋 良精
阿修羅像眉間にひそむ余寒かな 石浜 邦弘
昔昔の夢ばかり見る彼岸かな 三村 昌子
立春や命生みだす黒き土 松井 朱實
人気無き浜の風紋涅槃西風 森  君代
卒業へ長き廊下をゆつくりと 横川 節
春の雪とまどふ朝の動き出す 田中 君江
春塵の匂まとひて帰宅せり 天野 苺
丸み増す多摩の山山遠霞 浅見まこと
塗り直す柵の白さや牧開 相良 研二
三月の光ゆたかに真砂女句碑 岡本 和男
昭和雛飾る明治の旧家かな 藤原 敏子
親戚の子のごとく来て燕 寺崎 智子
茶筒の蓋ゆつたりと降り日永し 和田 秀穂
桜餅開花予報を聞きながら 西澤 照子
よき便り欲しきひと日や辛夷咲く 出口 涼子
更けゆけば肌を包みし春の闇 中澤 朋子
春の夜のチェコ語で歌ふラブソング 小國 裕美
オルゴールの白鳥まはる夜半の春 望月 郁子
雛あられ旅行かばんにそつと詰め 平林 敬子
薄紅の烟る梢や春来る 内藤 豪剛
木の芽雨ロダンの像の背のまろし 行木 信夫
春寒や波呟きて山黙す 加藤 美沙
かんざしの重たさうなる享保雛 井上美代子
人生に句読点あり雪柳 日比野晶子
鞦韆や風になるまで漕いでゐる 水科 博光
令和4年 6月号  
山里に古代の神や木の根開く 中村 優江
ゆるやかな時の流れや木木芽吹く 伊藤 道子
料峭の仏間にひろふ供花の塵 廣瀬 和子
雪形の駒瘦せてゆく遠嶺かな 久留宮 怜
ただいまの声一人づつ日脚伸ぶ 梅原 清次
節分の鬼透明にして辻に 大西 洋子
梅ふふむ近づいてくる人の声 山本そよ女
啓蟄や声をかぎりに赤子泣く 西田 幸江
かたくりの花に雑木の影模様 坂戸 啓子
告白はしてみたかりき囀れり 服部 史子
信玄の像や冬山侍らせて 岡田 慶子
侘助を小壺に活けて客を待つ 石堂 初枝
手作りの雛と共に籠りをり 山田 和江
地下駅へ下りる靴音冴返る 森田 真弓
杖をつく母と揃ひの春帽子 間部 弘子
太極拳春の扉を押し開く 武田 捨弘
雛菊の咲きて長姉の誕生日 佐野 弘子
雛飾る子の来るあてはなけれども 泉  葵堂
父の手を離れ子の凧上がりけり 山岡 千晶
道沿ひに使者の顔あり蕗の薹 上田 古奈
まだ春になりきれぬ雲をちこちに 本多ひさ女
梅の香や障子に映る枝の影 高見 香美
乗り継いでまたのりついで雪の駅 奥本伊都子
子等巣立ち一人ぼつちの福は内 澤野須美子
川下へ細波光る余寒かな 村岡 和夫
黄昏の白梅淡く暮れ残る 樋口 光男
うたた寝の露座仏囲む蕗の薹 田端加代子
春の空雲にとどけと立つ煙 中平嘉代子
春を待つ孫はパジャマにランドセル 梶本 圭子
手水舎の雪解雫の光落つ 中島 文夫
猫の抜け膝の子の抜け春炬燵 小倉 和子
かばんから春を小分けに旅土産 栁澤 耕憲
令和4年 5月号  
黙長き山をそびらに寒牡丹 北尾 鈴枝
透きとほる朝の静寂や梅ひらく 甲斐 梅子
ふるさとの山河まぶたに春を待つ 上達 久子
くくり紐逃れて犬の恵方道 福田 圧知
野良猫を追はぬ日と決め漱石忌 森本 隆を
神鈴のくぐもる音や雪舞へり 田中 京子
冬日向鳩と一緒に群れにけり 島本 方城
マフラーの渦中にありてながらへて 松尾 憲勝
髪型に名前のありて明の春 𠮷田 鈴子
寒椿ひたすらと言ふことばふと 清水山女魚
永らへて八十八の初手水 岡村祐枝女
夕千鳥波が消しゆく足の跡 福田真生子
野良猫ののそと見廻る四温かな 吉瀬 秀子
しづり雪竹林すくと目覚めけり 塩出 翠
若水の柄杓に掬ふ光かな 島松 岳
人日や生かされし身を慈しむ 森本 安恵
初富士やこの地に住むと決めた日も 鵜飼 三郎
亡き友の着信歴を冬の夜 高橋 浅子
父と児の楽しい時間雪だるま 北村加代子
注連作り夫の指先荒れてをり 田中 恒子
車窓より雪の白山走り出す 梅田喜美惠
足跡の道になりゆく今朝の雪 新庄 泰子
マンションの段のぼり降り手毬唄 田辺 正和
忘れえぬ思ひ出多し毛糸編む 吉岡 裕世
年神を案内申すか明烏 戸田孝一郎
襟たてて屋台の隅に年忘 中島 三治
鼓動さへ聴こえくるかに弓始 小畑 順子
一番機初日を乗せて今したち 伊藤 泰山
風花の跡を残さず消えにけり 名嘉 法琉
湯たんぽに名前をつけてかはいがり 矢倉 美和
寥寥と今日の命を冬の蝶 澤田 治子
靴下買ひ寒卵買ひ母見舞ふ 山本知恵子
令和4年 4月号  
   
採り終はり眠りに入るみかん園 名島 靖子
かたくなになつてはゐぬか花八つ手 橋本 爽見
大根煮て余生楽しむ心持 竹内 久子
神迎ふ日の帯を引く朝の海 村田 近子
初富士へ一歩一歩の渚行く 杉山 通幸
置物の熊動きさう暖炉の火 小野田紀久子
生きて居ることが仕事よ日向ぼこ 山下 千代
志す事一つ欲し去年今年 川西万智子
冬蝶や庭にぽつんと石の臼 坂谷ゆふし
父と子は蝶ネクタイやクリスマス 梅原惠子
日向ぼこ時折遠に目を休め 籔下 美枝
短日の乾田走る雲が影 山田 正弘
お干菓子の口溶けはやし冬の虹 池田 小鈴
大空へ杵たかだかと餅を搗く 伯耆 惟之
つつましき暮しの中の師走かな 隅山 久代
寒き夜言葉の在庫かき集め 萩原 胡蝶
マスク取る老い偽りのない鏡 高岡ひろみ
大枯野日当たる底を郵便車 中畑 恵
冬ぬくし人待つ駅に木のベンチ 谷中 隆子
合鍵を大家に戻し晦日そば 秋山 順子
踏切の向かうに見える年の暮 柳  爽恵
冬ざれの野に一条の光あり 川上 桂子
背伸びして心新たに冬至かな 國友 淳子
日向追ひ座蒲団寄せる冬座敷 田中 美樹
初雪や辰巳芸者の蛇の目傘 中山 克彦
ゴッホ展出て黄葉のカフェテラス 佐藤 洋子
冬日向心の陰の薄らぎぬ 太田 鈴子
年惜しむ画面の母は手を振りて 奥田 清子
住みにくき世に猫とゐて漱石忌 武  義弘
街路樹にかかるオリオン子の忌日 東山美智子
朝靄より船影走る冬隣 藤沢 道子
蒼穹へ石段二千散紅葉 涌井 久代